カテゴリ:ファンタジー( 7 )

猫 第七話

メール便が届いた。
この前注文したクマの絵が描かれた首輪だ。


この数日間僕と猫は毎日同じような日々を送っていた。
僕は学校に行っては適当に授業を受け、昼休みになったら林に行くというのがお決まりになっていた。

僕が林についてしばらくすると猫が現れて二人で遊ぶ。
遊ぶといっても、猫が枝を咥えたり、ゴロゴロしたりするのを見ているだけだが。


この数日で季節は明らかに夏になった。蒸し暑い風が肌にまとわりつく。
でもこの林は幾分涼しかった。木の葉は日差しを簾のように遮って、
ふく風にさらさらと涼しい音を立てている。

その下で僕らは小さい子供に戻ったように遊んだ。
時間がたつのは信じられないほど速い。授業を受けているときはあんなに長いのに。

三限目がおわるチャイムの音。
夢の国に響く至極現実の響きだ。

猫もこのチャイムが鳴れば夢の国は「また明日」ということを理解しているようだ。
僕が頭をなでると、林の中へスタスタと消えていく。


こんな日々を毎日毎日過ごしていた。
でも今日は少し違う。今日は首輪が届いたからね。

猫の頭であの日にネットで注文した首輪のことなんて覚えてるかどうかわかんないけど、
僕は猫に首輪をするのに結構わくわくしていた。

プレゼントをあげるというのは、気持ちのいいことなのかもしれないと思ったりした。

僕は首輪をカバンに入れて、学校へ向かった。
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by huashanyuan | 2009-07-12 10:32 | ファンタジー

猫 第六話

暑い。僕は目が覚めた。隣を見ると猫はまだ寝ている。
お腹がテンポよく膨らんだり縮んだり、生き物なんだなと実感した。
僕は猫を起こさないようにゆっくりベッドから出て一階に行った。夜ごはんはまだできていない様子だったので僕は買い物に行くことにした。

家から三分くらいの所にスーパーがある。散歩がてら歩いていくことにした。
スーパーについて僕が向かったのはペット用の餌売り場。スーパーだから品揃えはあまり良くない。猫用の餌は、缶詰に入っているのと、袋に入ったスナック菓子みたいなやつの二種類があった。どっちがいいか分からないので、二つとも買うことにした。

猫の餌を買って帰り、部屋に戻るとまだ猫は寝ていた。僕は猫のお腹をコチョコチョしてみた。すると猫が眠たそうな眼を開けてぐるぐる回り始めた。そして僕が買ってきた餌を見せると、パッとして、完全に目が覚めた。

「どっちの餌がいいかな?」
僕が猫にそう声をかけたが猫は餌の袋をバンバンたたくだけだった。
ドライタイプの方をバンバンするので、僕は「こっちにしよっか。」といってドライタイプの餌を開けてお皿に適当に入れてみた。するとすごい勢いで食べる。食べている姿を見ているのは可愛いので、僕は餌をお皿に追加して入れた。するとまた食べる。

「今日はこれくらいにしとこうか。」今日の餌の時間は終わり。ということで猫を抱いてベットに腰かけた。

昼間に首にかけたシロツメクサの首飾りがしなびてきていた。これはよろしくない。僕はシロツメクサの首飾りを猫から外した。すると猫は歯をむき出しにして僕の手を引っ掻いてきた。どうやら首飾りをとられて怒ってしまったようだ。

どうしたものか。このまま首につけておくわけにはいかないし・・・

僕は楽天市場で猫の首輪を検索して、その一覧を猫に見せた。するとそっちに目がいって攻撃をやめた。

その隙に、僕は記念ということでこのシロツメクサの首飾りを押し花にすることにして、使わなくなった辞書に挟んでその上に重たい本をいっぱい置いた。

猫はずっとパソコンの画面を不思議そうに見ている。

僕はいろんな首輪を猫に見せて猫が鳴き声をあげたらそれを買ってあげようと、勝手に考えた。いろんなページをまわって、写真を拡大して見せていると、ある時口を開けて「ミー」と鳴いた。
「ハイ決定」買うことになったのはクマの絵が描かれた首輪だった。僕はそれを注文して、「よかったね」と猫に声をかけた。

不意になんで猫に声なんかかけてるんだ?そんなキャラだったかな・・・と思ったが、まぁいい。僕は猫の頭を撫でて夜ご飯を食べに行った。
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by huashanyuan | 2009-06-14 20:05 | ファンタジー

猫 第五話

電車というのは不思議で、家の最寄り駅に着くと勝手に目が覚めるようになる。

昔テレビで日本人は冷たいと勝手に思いこんだ外国人がその理由としてこんなことを言っていた。

「日本人は電車に乗ったら老人に席を譲りたくないから、目を閉じて寝たふりをしている。自分の駅が来たらさっと目を開けて降りていくなんて寝たふりだ。」

まったく勝手な決めつけもいい加減にしろと・・・

そんなことを思いながら家まで自転車をこいだ。

誰もいない家の鍵を開けてすぐに二階の自分の部屋へ行く。
疲れやすい体質のせいか学校から帰ったらまず寝るというのが僕の日課だ。
それにしても部屋が暑い。窓を開けると気持ちの良い風が部屋にはいってきた。でもだからと言って部屋が快適な温度になることはなかった。クーラーをつけるのはまだ早い。
僕は仕方ないなと思いながらベッドに横になった。

横になるのは最高だ。体の汗も引いて、暑さも和らいできた。
普段ならこのまま寝るところだが、今日は違った。

ベランダの扉がガタガタいっている。
風が強いのかと思ったが、窓からの風は一定して穏やかだ。うるさい。
うるさいのを我慢して寝ることに集中しようかとも思ったが、夜中にトイレに行くのがめんどうくさいからと我慢していても結局行く羽目になって初めから行っておけばよかったと思う状況が目に浮かび、僕は重たい体を持ち上げてベランダの扉の前まで行った。

扉をゆっくり開けると、目をパチクリさせた黒猫がこちらを見ていた。さっきまで扉をバンバンしていたのは私じゃないよとでも言いたげだった。
シロツメクサの首飾りにウソは似あわない。

それにしてもこの猫はどうやって僕の大学まで来て、またここまで帰ってきたんだ?歩いてにしては早いような気もする。いろいろ考えたがわからない。まぁそこは考えないことにしよう。シロツメクサの首飾り。間違いなくあの猫だ。

猫は長旅のせいかかなり汚れていた。足のうらは土まみれで、体もきれいとは言えなかった。このまま部屋に入れるわけにもいかないので僕はベランダに置いてあった洗濯用の洗面器に水をはってお風呂にした。猫は勘違いしたのか水を飲み始める。長旅でのども渇いたのだろう。しばらく飲ませておいて、一段落ついた時、僕が猫を持ち上げて洗面器の水につけた。するといきなり暴れだして、一瞬にして洗面器から出てしまった。そしてベランダの一番すみまでいってしまい、警戒したような顔でこちらを見ている。

どうやらかなり水が嫌いらしい。そういえば猫が水嫌いという噂をきいたことがあったような。今になって思いだした。猫はなかなか僕に近づいてくれない。僕が近づくと逃げてしまう。どうしたものか。僕はまず洗面器の水を全部捨ててもう水に入れないよとアピールした。その後は手を叩いて声をかけた。だんだん表情が拗ねた子供みたいな感じになってきて、ゆっくり僕の所まで歩いてきた。僕は猫を抱きかかえて足の裏をチェックした。まだ土が取れていない。雑巾を水でしぼって足を拭いた。これなら文句はないようだ。

綺麗になった猫を抱えて部屋に入った。僕はそもそも寝ようとしていたということを思い出した。僕は猫を抱いたままベッドに横になる。

オレンジ色の西日、涼しい風。僕は猫の体温を感じながら眠りに落ちた。
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by huashanyuan | 2009-06-01 04:30 | ファンタジー

猫 第四話

階段を下りてリビングのドアを開ける。
机の上に、サラダとリンゴが用意されていて、パンと紅茶は自分で用意する。
レタスと胡瓜とトマトのサラダの上にリンゴが2切れ。
昔から変わらない僕の朝食だ。
物心ついた時から使っていた紅茶用のマグカップはひび割れてしまって、今はもう使っていない。アヒルの絵が描かれたそのマグカップは、旅行に行ってはお土産といってマグカップを買ってくる親戚の伯父さんにもらったものの一つらしい。もらった時のことは知らない。ただ物心ついたころからそのマグカップで毎朝紅茶を飲んでいた。

小さい頃は母親に紅茶を入れてもらっていたので、時たまカップを間違われた。その時の紅茶の重苦しい味は今でもよく覚えている。カップが違うだけでこんなに紅茶の味が変わるとは不思議なものだが、まずいものは仕方がない。本当に味が変わるのだ。

そのカップが使えなくなってしまった今、僕は何の変哲もないただの白いカップで紅茶を飲んでいる。白いカップは食器棚に六個ほどある。どれも同じ形で同じ白色。見比べれば茶渋の付き具合が各々違うのだろうが、そんなことには誰も気を配らない。毎朝どれを使っているのか別に決めているわけではないし、どれを使ったところで紅茶の味は同じだ。僕は今日も無作為に六個並んだ白いカップから一つを選んで紅茶を注ぐ。そして毎日同じ味の紅茶を飲む。それが僕の日常であったし、今日もまたそうだ。

ちぎったパンを紅茶で流しながらテレビを見る。服は椅子にかかったままのジーパンを履き、クローゼットの一番取りやすいところにあるTシャツを着て、その上に適当なシャツを羽織る。リビングをうろちょろしながら歯を磨いて、時計をしたら家を出る。朝起きてから三十分もあれば家を出る体制が整うわけだ。

毎朝の満員電車。乗り込むドアも決まっている。二年以上同じメンバーで毎日のように同じドアの前に並んでいる。下手すれば大学の友達よりも高い頻度で会っているくせに一切友達になる気配はない。そんな人たちに囲まれながら電車に揺られ大学へ向かう。


今日は天気がいい。大学につくと一応整えられた大学の木々たちがとてもきれいな新緑を僕に見せてくれた。風も涼しくて、まだ蒸し暑い夏になる前、束の間のさわやかな季節だ。教室につくと僕はいつも座っている後ろの廊下側の席に座った。教室に入ってくる友達に「おはよー」「ひさしぶりー」とかいいながら、授業が始まるまでの時間をすごす。

不意に僕はいつもと何かが違うような気がした。
さわやかな陽気と、窓から見える新緑。いつもと変わらない授業前の光景。それらをボーっと眺めているうちに、チャイムが鳴って、授業が始まった。


昼休みが終わって三限目が始まろうとしていた。僕はまだ食堂にいて、体からやる気がわいてくるのを待っていた。でも、僕の頭の中に湧いてきたのは、三限の授業はレポート提出で単位が取れるということと、レポート課題の言い渡しが確実に今日はないということだった。大学生活が始まって日を追うごとに怠惰になっていく自分に少なからず不安は抱いていたが、勤勉に学業に励む生徒になる気力もなかった。僕は大学の食堂をあとにして、駅に向かった。

駅に向かう途中、僕は木々の新緑に見とれていた。木の葉の間から春の日差しがのぞいてきらきらしている。僕はこんな日も長く続かないだろなと思って、少し林を見て回ることにした。並木のように植えられた木々達の間を入っていくと、そこには昔遊歩道にしようとしたかのような跡が残っていて、古びた木製のベンチが置かれていた。僕はそこに座って一息ついた。ふーとポジティブな溜息をついて木々に囲まれた空を見上げた。大きく息を吸って目を閉じる。湿気のないさらさらの風が気持ちよかった。

急に僕の膝に重くて何か温かいものの感触がした。驚いて目を開けると、僕の膝には一匹の黒猫がこちらを見て座っていた。青い眼球に黒い瞳。急に昨日の出来事を思い出した。

「おまえ、昨日の…」
猫相手につい口をついて言ってしまった。

猫はこちらを見るだけで、何も返事はしない。
僕は一方ではあり得ないと思いながら、一方でこの猫が昨日の猫だと確信しているような気もした。

僕は辺りに生えていたシロツメクサの茎で冠を作った。昔、幼稚園の遠足とかでよくシロツメクサの冠みたいなのをあんで作ったものだ。今でも作れたのには自分でも驚いたが、それを眺める猫は、何かとても奇異なものでも見るような表情で、その顔を見ていると少し可愛かった。
出来上がった冠をぐるぐるさせたり、高いところに持っていったりすると、猫はそれを目で追ったり、手でパンチをしてくる。その光景は見ていて飽きなかった。

そうこうしているうちに、チャイムが鳴っているのが聞こえた。結局三限目いっぱい猫とあそんだらしい。僕はもう帰ろうと思って鞄を背負った。そして、シロツメクサの冠を猫の頭から通して首飾りにした。頭を通すとき猫は少し嫌そうな顔をしたが、首に通ってからはケロっとした顔になった。
林を抜けるころまで猫は僕のまわりをうろついていた。黒猫にシロツメクサの首飾りはかなり目立っていたが、それなりに可愛かった。

僕が林を抜けて、歩道を歩きだすと猫の姿は消えていた。電車まで付いてきたらどうしようかと心配していたが、僕の心配をよそに猫は勝手にどこかに行ってしまったようだった。

僕は電車に乗り込み、家の最寄り駅まで見事に眠った。





つづく
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by huashanyuan | 2009-05-24 08:57 | ファンタジー

猫 第三話

*
朝から降り続いた雨はもうやんだようだ。
開け放たれた窓から雨上がりの涼しい風が部屋に吹き込む。
空に浮かぶ雲はこの風からは想像できないくらい足早に夜空を過ぎ去っていく。
雲の切れ目から半分の月が時折姿を見せる。

月の方が駆けて行くように見えるのは、空を眺めすぎたせいだろうか。

開け放たれた窓の横には勉強用にしては少し小さく見える机があった。
備え付けられた本棚には本がびっしり詰まっていて、机の上にも本が平積みになっていた。

その本を枕に一人の女が突っ伏していた。

机の上に投げ出された右手には開いたままの携帯が握られ、待ち受け画面はまだ明るかった。
腕の隙間から覗く彼女の瞼は赤くはれていて、淵から涙がにじんでいた。
かすかににじむ涙さえも月の光は見逃すことはなかった。

月の光の届かない部屋の隅。真っ黒い影が彼女の背後に漂っていた。
その影は次第に彼女に近づいて、彼女の顔を覆い尽くす。

窓からは変わらず心地よい風が吹きこんでいた。

どれくらい時間がたっただろうか、真っ黒な影は月の光に吸い込まれ、彼女の顔は再び月に照らされはじめる。


再び現れた彼女の目に涙はもうない。
ひんやり心地よい風が赤く腫れた瞼にやさしくそよいでいた。

*





つづく
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by huashanyuan | 2009-05-24 02:13 | ファンタジー

猫 第二話

青い眼球に黒い瞳。

僕は自分の瞬きで、はっと我に帰った。

突然部屋に現われたその黒猫に僕は少しも驚かなかった。
ただ、今はひたすら横になりたくて、椅子を移動させるのはやめた。

僕はベッドに横になる。
窓からは半分の月がのぞいていた。
僕は部屋の明かりを消す。
明かりの消えた部屋の中で、二つの青い目は必要以上に月の光を反射させていた。

僕は寝返りを打って、目をつむる。
目の前にはただ漆黒の世界が広がって、全身の力が抜けていく。
身体に取り残された気だるさと自分の呼吸音とが、僕をこの世にとどまらせていた。




イライラする電子音が耳を劈く。激しい動悸はこの電子音のせいだろうか。
僕は開かれることを強く拒んでいるとしか思えない瞼を無理やりこじ開けて、携帯のサイドボタンを押した。
机の上のアナログ時計を見ると、大体七時を指していた。
携帯を開いてholdボタンを押すのは、二度寝をしないという誓いだ。
僕は小さな誓いを立てて、ベットをあとにする。

ドアまで来て、不意に昨日のことを思い出した。
振り返ると、ちらかった部屋の真ん中に椅子が置いてある。
脱いだままのジーパンが床に向かって垂れていた。




僕は向き直って、朝食をとりに階段を降りた。













つづく
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by huashanyuan | 2009-05-21 11:33 | ファンタジー

猫 第一話

真夜中、僕は携帯を片手に家を飛び出した。

はじめは家の引力に引っ張られるかのように家の周りをぐるぐるまわっていた。

でも次第にその引力は薄れていたようだ。

僕が携帯を耳から離して待ち受けを覗くと、家を出てから二時間以上がたっていた。
ふと周りを見渡すとそこは森の中だった。
空を見上げると雲と雲の間から半分の月が綺麗に見えていた。

月を見ていると家に帰る気も失せて、僕はこのままここで朝になるのを待とうと思ったりした。
数分もしないうちに寒くなって、僕は家に向かって歩き出した。春になったとはいえまだ夜は寒い。風呂上がりにパジャマのまま外に出たことを今になって思い出した。

帰り道はとても長く感じる。
数時間前この道を歩いてきたとは到底信じられなかった。

車の気配が一つもない道路の真ん中を歩いた。

あたりは次第に見慣れた風景にかわり、僕は家についた。

家の人たちを起こさないためにそっとドアを開けて家の中に入った。
ドアには鍵がかかっていなくて、不用心だったと思いながら、何事も起こっていない我が家を見て安心した。

リビングの電気は消えていて、二階の僕の部屋から、つけっぱなしだったのか、光が漏れて階段を照らしていた。階段を上り、半分開いたままのドアをさらに開けて僕は部屋入った。

ちらかった部屋の真ん中に椅子が置いてある。こんな椅子の置き方したっけ。
僕はあるべき場所に椅子を直そうと、背もたれを持った。
その時、僕の目に鋭い視線が突き刺さった。
青い眼球に黒い瞳。しっかりとじた口が何か言いたげだった。

そこにいたのは一匹の黒い猫だった。


                                                              



                                                              -つづく-
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by huashanyuan | 2009-05-20 16:49 | ファンタジー